フェラーリのデザインは、ここ数年で明らかに変化している。丸みを帯びた筋肉質なフォルムから、よりシャープで幾何学的な表現へ。その背景にある哲学とは何か。Harry’s Garageチャンネルが、フェラーリ本社マラネッロを訪問し、GTカーのエクステリアデザイン責任者であるアンドレア・ミリテッロ氏に直接話を聞いた動画は、クラシックカーと現行モデルを並べながらデザインの「なぜ」を丁寧に解剖する、稀有なコンテンツに仕上がっている。フェラーリの美学に深く興味を持つドライバーにとって、見逃せない一本だ。
この動画のみどころ
- フェラーリ本社でデザイン責任者に直接インタビュー、設計思想の核心に迫る
- 365 GTB/4「デイトナ」が当時いかに既成概念を打ち破ったかを実車で解説
- バイザー形状フロントの系譜が、デイトナから現行12チリンドリへどう受け継がれたか
- 60年代のフェラーリデザインにおける空力への向き合い方と現代との比較
デイトナが壊した「フェラーリらしさ」
1968年前後のフェラーリといえば、楕円形のグリル、丸いヘッドライト、筋肉質なフェンダーという様式美がほぼ確立されていた。275 GTBに代表されるその流儀は、当時のイタリアン・スポーツカーの王道そのものだった。
ところが、365 GTB/4はその文法をほぼ全否定する形で登場した。動画では、実はデイトナには直前の段階でプロトタイプが存在していたことが紹介されている。そのプロトタイプは330 GTCに似た従来型の楕円グリルを持っており、いわば「普通のフェラーリ」だったという。しかし最終的にデザインチームは、時代の空気、月面着陸の時代にふさわしい未来的な表現を求め、丸いヘッドライトをガラスのカバーで覆い隠す「バイザー」構造を採用した。
その判断は、結果として大きな価値を生んだ。光源を隠してガラス越しに見せるバイザー効果は、当時のスポーツカーには存在しないほど前衛的な表現だった。編集部の視点で言えば、これはランボルギーニ・カウンタックやマクラーレン F1が後に示す「テクノロジーを美として見せる」という方向性の、いわば先駆けとも読み取れる。

ボディを「2枚のシェル」で読む視点
動画の中で特に興味深い解説のひとつが、デイトナのボディを「上下2枚のシェルが重なった構造」として読み解く視点だ。車体の側面中央には、上半身と下半身を水平に区切るような細いネガティブラインが一本走っており、これがボディ全体に独特の緊張感とシャープさをもたらしている。
この考え方は、現行の12チリンドリにも継承されているという。キャビンとボディ下部を視覚的に分断するファセット、つまり稜線の処理が、まさに同じ二重構造の思想に基づいているとされる。
リアのライトシグネチャーも注目ポイントだ。デイトナは4灯の丸いリアランプを持ち、これがいかにも「フェラーリ的」と語られることが多い。しかし動画では、前モデルの275 GTBは2灯だったという事実が指摘されており、当時のデイトナも実は伝統の継承ではなく、むしろ大胆な刷新だったことがわかる。フェラーリの「伝統」は、意外と新しいものを包み込む形で作られてきたと言えるだろう。

プロポーションが語る「速さ」の本質
実車を前にした動画の解説では、デイトナの最大の魅力として「プロポーションの劇的さ」が取り上げられている。エンジンが前方に大きく張り出した長大なフロントフードに対し、キャビンはほぼリアアクスルの真上に位置している。このアンバランスさこそが、見る者に圧倒的なパワーと動的な緊張感を伝える源泉だという。
湾曲したフロントウインドシールドも、このプロポーションを際立たせる要素のひとつ。Aピラーが実質的にホイールベースの中央付近に来ることで、キャビンが車体全体の中に「埋め込まれた」ような印象を生み出す。
さらに興味深いのは、デイトナのボディに丸みのあるフェンダーやいわゆる「筋肉」的な造形がほとんどないにもかかわらず、見た目の官能性が失われていない点だ。これは、サーフェスのねじれをコントロールすることで成立しており、表面が直線的なまま垂直に近い角度へと徐々に変化していく緊張感のある面構成が、量感の代替として機能している。現代のハイエンドスポーツカーでしばしば語られる「空気を彫刻する」という概念の原型がここにあるとも言えそうだ。
空力については、動画内では「設計段階でのエアロ解析ではなく、問題が発覚してから対処するというアプローチが当時は主流だった」という趣旨の話も紹介されており、現代のCFD解析前提のデザインプロセスとの大きな違いも垣間見える。

Roadly編集部コメント
フェラーリのデザインについて語られるとき、多くの場合は完成形の「美しさ」が主役になる。しかしこの動画は、デザイン責任者が実車の前でプロセスと思想を語るという構成を取っており、表面の美しさではなく「なぜその形になったのか」という設計言語の深層に踏み込んでいる点が際立っている。
Roadly編集部として特に注目したいのは、デイトナが持っていた「時代精神との対話」という姿勢が、現在の12チリンドリにも貫かれているという視点だ。かつてのアポロ計画時代に月を見上げるような前衛性を持ったデザイン判断と、今日のエレクトリック化時代にフロントエンジン・自然吸気12気筒という選択でアンチテーゼを打ち出す姿勢には、どこか通底するものを感じる。フェラーリのグランツーリスモ的な世界観に共鳴するドライバーにとって、必見のコンテンツだ。
デイトナが1960年代末に打ち立てたデザイン哲学の系譜が、半世紀以上を経て12チリンドリに息づいているという事実は、フェラーリという存在の一貫性を改めて浮かび上がらせる。Harry’s Garageチャンネルの動画では、本稿で紹介しきれなかった細部の解説も豊富に収録されており、フェラーリデザインを深く知りたい方はぜひ本編を確認してほしい。
動画情報・出典
- タイトル:Why has Ferrari design changed so much recently? I ask Ferrari Design the reasons why
- チャンネル:Harry’s garage
- 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=S-RcZhCe9uo
本記事は上記動画の内容を元に、Roadly編集部が独自視点で再構成・執筆した解説記事です。動画および動画内の映像・音声・サムネイル画像の著作権は、投稿者である Harry’s garage に帰属します。動画本編の視聴は上記リンクよりご確認ください。
※本記事は情報提供を目的とした解説であり、商品・サービスの購入や投資判断を推奨するものではありません。