「最近の日本車EV、なんだか印象が違う」。そう感じている人は、たぶん少なくない。
2026年に入ってから、ホンダ N-ONE e:、新型日産リーフ、スバル トレイルシーカー、レクサス TZ、ホンダ スーパーワン。気がつけば、半年もしないうちにこれだけのEVが日本車メーカーから発表されてきた。
ただ、量だけじゃない。並べてみると、各車がそれぞれの「らしさ」を強く打ち出していることに気づく。AWDのスバルらしいEVがあり、走りを追求するホンダらしいEVがあり、軽自動車文化を体現するEVもある。
数年前までの日本車EVは、正直なところ「どこのメーカーのEVなのか」がぼやけて見えがちだった。それが、ここにきて急に色が出始めた。2026年は、日本車メーカーが「とりあえずEV」から「自分たちのEV」へ踏み出した転換点なのかもしれない。
振り返り:第一世代EVは“なんとなく似ていた”
いま振り返ると、2010年代後半から2023年頃までの日本車EVには、ある種の苦しさがあった。
テスラのモデルSが世界を驚かせ、欧州・中国メーカーが矢継ぎ早にEVを投入する中、日本車メーカーは「とにかくEVを作って並べる」段階にいた。日産リーフは早くから市場にあったものの、続いて登場したトヨタbZ4X、スバル ソルテラ、ホンダe、レクサスRZ、マツダMX-30。いずれも「日本車メーカーがついに本気のEVを出した」と言われながら、それぞれの個性が立ち上がるにはもう少し時間が必要だった。
理由はいくつもある。プラットフォームの新規開発、バッテリーサプライチェーンの確保、航続距離と充電性能のキャッチアップ。やるべきことが多すぎて、「らしさ」までは手が回りきらなかった。ガソリン車時代に各社が積み上げてきたDNAは、EVへの過渡期では一旦フラットに均されていたように見える。
それが、ここ半年の発表ラッシュで様子が変わってきた。航続距離も充電性能も一定の水準に到達し、プラットフォームも各社で熟成が進んだ。「EVを作れるかどうか」のフェーズが終わり、「どんなEVを作るか」が問われる段階に入った。そこから、各社の本領が見えはじめている。
2026年、各社の“らしさ”がEVに宿り始めた
ここからが本題。2026年に発表された日本車EVを並べると、驚くほどそれぞれが違う方向を向いている。各社のガソリン車時代のDNAが、EVになってもそのまま生きていることが見えてくる。
スバル トレイルシーカー|AWDとアウトドアの本領

2026年4月9日に発表されたスバル「トレイルシーカー」は、ベース車「ソルテラ」から荷室を1.4倍に拡大した、スバル独自のアウトドア志向EV。先代ソルテラのプラットフォームを活用しつつ、スバルが何十年もかけて磨いてきた“AWD&悪路走破”の世界観を、EVに移し替えてきた。
スバルといえば、雪道や林道、ワインディングを楽しむオーナーに支持されてきたメーカーだ。フォレスター、アウトバック、レガシィ、それぞれに共通するのは「自然の中に分け入っていく相棒」というキャラクター。トレイルシーカーは、そのDNAをEV時代に持ち込んだ最初の本格モデルといえる。
第一世代の「ソルテラ」は、トヨタとの共同開発という出自もあって、スバルらしさが見えにくいという声もあった。トレイルシーカーは、そこから一歩踏み込んで、「これはスバルのEVだ」と一目で分かる方向性を打ち出している。
ホンダ N-ONE e:|軽EVという日本独自解

ホンダ「N-ONE e:」は、2025年9月に発売開始された軽乗用EV。航続距離は軽EV最長の295kmで、日産サクラの約1.6倍を実現している(出典:モーターファン別冊「2026年 最新EVのすべて」)。N-ONEというモデル自体が、Nシリーズの中でも“レトロモダン”という独自の立ち位置にあるが、そのキャラクターをEV化に持ち込んだ。
軽EVは、世界的に見れば日本独自のジャンルである。狭い道路、限られた駐車スペース、近距離移動が中心の生活圏。この日本固有のドライバー事情に最適化したEVを、ホンダは真正面から作ってきた。日産サクラ/三菱eKクロスEVが切り拓いた市場に、N-ONE e:は航続距離という明確な進化軸で参戦している。
ホンダといえば、人々の生活に根ざしたクルマ作り。N360、シビック、フィットと連なる系譜は、移動をより便利に、より楽しくする発明の連続だった。N-ONE e:は、その流れの2026年版だ。
ホンダ スーパーワン|走りの楽しさをEVで

ホンダはもう一つ、対極のキャラクターを持つEVを2026年5月下旬に投入する。「スーパーワン」だ。ジャパンモビリティショー2025で注目を集めたコンセプト車「Super-ONEプロトタイプ」の市販化モデルで、コンパクトなEVスポーツという立ち位置。予想価格は419万円とされている(出典:MOTA、2026年4月時点)。
雷モチーフの紫ボディに、“豹変”と表現されるコックピット。一目見て、これが「お行儀のいい移動手段」を志向していないことが分かる。ホンダのもう一つの遺伝子、“走りの楽しさ”を、EV時代にどう表現するか、その回答がスーパーワンだ。
ホンダといえば、シビック タイプR、S2000、NSX、近年のシビック e:HEV。「乗っていて楽しい」を本気で考え続けてきたメーカーだ。EVで走りの楽しさをどう作るか、これは世界中のメーカーが取り組んでいるテーマだが、ホンダは“スポーツモデル”というそのものずばりの形で答えを出した。
N-ONE e:とスーパーワン。ホンダが2026年に出してきたこの2台を並べると、「生活の足」と「走りの相棒」、ホンダの両極のDNAがそのままEVに翻訳されていることに気づく。
レクサス TZ|高級と実用の総合力

2026年5月7日に世界初公開されたレクサス「TZ」は、3列シートを備えた前後モーター4WDのEV。WLTCモードで航続距離620kmという、長距離移動を本気で想定したスペックを持つ(出典:webCG)。発売は2026年冬の予定。
レクサスはこれまでもEVを出してきた(UX300e、RZ)が、TZが面白いのは「3列シートの本格SUV」というレクサスらしさが前面に出ている点だ。LXやLMが体現してきた“プレミアムな多人数移動”という価値観を、EVプラットフォームで再構築している。
長距離を、家族や仲間とともに、上質に。ガソリン時代のレクサスが磨いてきた“総合力”が、EVになっても薄まらず、むしろ航続620kmという数字で再定義されている。電動化が進むと「燃費の良い高級セダン」という従来の価値が消える、と言われていたが、レクサスはその先に「航続距離と静粛性で再定義する高級EV」という解を出してきた。
日産 新型リーフ|EV先駆者の意地

日産リーフは、2010年に世界初の量産EVとして登場した、いわばEVの始祖だ。その3代目が、2026年モデルとして登場した。航続距離は600kmオーバーという、初代から見れば桁違いの進化を遂げている(出典:モーターファン別冊「2026年 最新EVのすべて」)。
リーフは、長く“EVの代名詞”であり続けたが、その後発売されたサクラやアリアの陰で、やや存在感を薄めていた時期もあった。3代目は、「EV先駆者としての日産」のプライドを取り戻すべく、航続性能・デザイン・パッケージング、すべてを刷新してきた。
「電気自動車のリーディングカンパニー」を標榜してきた日産にとって、リーフは譲れない一台だ。新型リーフは、その自負を再確認するモデルといえる。
スズキ e ビターラ|気軽さとコスパ

スズキ「e ビターラ」は、300万円台からというEV-SUVとしては破格の価格帯で登場した。スズキらしい“気軽さ”と“実用性”が、そのままEVに反映されている。
スズキは、軽自動車・小型車を中心に「コストパフォーマンス」と「日常での使いやすさ」を磨いてきたメーカー。ジムニー、スイフト、ハスラー、ソリオ、いずれも“等身大のクルマ作り”が共通するキャラクターだ。e ビターラは、EVという新しい技術を、スズキのいつもの距離感で届ける一台になっている。
EVは高級な乗り物、という固定観念を切り崩していくのは、こういう価格帯のモデルだ。スズキらしい役割を、EV時代でも淡々と果たしている。
ドライバーにとって、何が変わるか
ここまで6台を並べてきたが、ふと思うことがある。「EVだから〇〇」ではなく、「スバルだからこのEV」「ホンダだからこのEV」と選べる時代が、ようやく来たのではないか。
これまで、EVを検討する人の多くは「EVの中で何を選ぶか」という発想だった。航続距離、充電速度、価格、補助金。その指標で各社のEVを横並びに比較する。でも、それだとどうしても「EVというジャンル全体」と向き合うことになって、ガソリン車時代に好きだったメーカーへの愛着とは、どこか切り離されてしまっていた。
編集部の一人は、ガソリン時代から長くスバルファンだ。アウトバックで雪山に通い、AWDの安心感に何度も助けられてきた。EVへの乗り換えを検討するときも、これまでは「電気のクルマ」として比較表を見てきたが、トレイルシーカーの発表を聞いて初めて、「自分のカーライフに、スバルのEVが選択肢として乗ってきた」と感じたそうだ。
これは大きな変化だ。「EVに乗り換える」のではなく、「好きなメーカーがEVを作ったから、それを選ぶ」。後者の発想が成立するのは、各社のEVがそれぞれの色を持ち始めたからこそ、だ。
ドライバーの選び方は、これからもう一段豊かになる。山に行く人はスバル、走り好きはホンダ、長距離家族移動はレクサス、街乗りなら軽EV、コスパならスズキ。自分のドライブスタイルと愛着で選べる、その自由度が、2026年に確かに広がってきた。
まとめ|EV時代でも、好きなメーカーは好きなままでいい

2010年代後半に始まった日本車EV第一世代は、各社が「EVを作れるか」に挑んだ時代だった。プラットフォーム、バッテリー、航続距離。そういう基礎工事に膨大なエネルギーが費やされた。各社の個性まで手が回らなかったのは、ある意味で必然だった。
それが、2026年の日本車EVを並べてみると、ガソリン時代に各社が育んできた個性は、消えていなかったことが分かる。EVになっても、スバルはスバル、ホンダはホンダ、レクサスはレクサスのままだった。技術が成熟して初めて、「らしさ」を語る余白が生まれたのだと思う。
EVへの移行は、好きなクルマと別れることではない。好きなメーカーが、新しい時代に向けてもう一度クルマを作り直してくれる、そんな出来事だったのかもしれない。
次の愛車を考えるとき、「EVの中から探す」という発想を、少しだけ脇に置いてみてほしい。「自分が好きだったあのメーカーは、いまどんなEVを作っているか」。そこから入る選び方も、これからのカーライフでは十分にアリだ。
そして、選択肢が増えることそのものを、ドライブを愛するすべての人と一緒に、素直に喜びたい。