2026年9月23日、英国ロンドン。ベントレーがブランド史上初となる完全電気自動車「トルカル(Torcal)」を世界に向けて発表した。創業100年超の老舗が、内燃機関という絶対的な核を取り外した瞬間だ。しかしベントレーはそこに「喪失」ではなく「進化」を詰め込んだ。888PSの爆発的な動力性能、ベントレーとして初採用のフルアクティブ・サスペンション、英国の職人技が宿る内装。数字だけを追えばスーパーカーと呼ばれるスペックでありながら、コンセプトの根底にあるのは「乗る人を癒す移動体験」だ。フライングスパー級の快適性とコンチネンタルGTスピード級の走行性能を一台に融合するという、一見矛盾した命題にどう答えを出したのか。プレスリリースの細部まで読み解き、Roadly編集部が注目ポイントを整理する。
この記事のポイント
- ベントレー初のBEV「トルカル」が誕生。英国クルーで設計・生産し、ブランド4番目のモデルラインに
- Sモデルは0-100km/h 2.9秒・最大トルク1,350Nm(ベントレー史上最高)と過激なスペックを誇る
- 航続距離最大600km・400kW急速充電で10〜80%を約16分。実用性も妥協なし
なぜ今、ベントレーがEVを作るのか
ベントレーのラインアップにはベンテイガ、フライングスパー、コンチネンタルGTという3本柱があった。トルカルはそこに加わる4番目のモデルであり、同時にブランド初の完全電気自動車(BEV)という二つの歴史的役割を担う。
公式発表によれば、これによってベントレーは内燃機関(ICE)・ハイブリッド・BEVのフルラインアップを初めて完成させたことになる。生産拠点は従来モデルと同じ英国クルー工場で、英国全土のサプライヤー網を活用した「英国製造業への大きな投資」と位置づけられている。
会長兼CEOのフランク=シュテファン・ヴァリザー氏は「トルカルは何よりもまずベントレーであり、心を込めた職人の手作業と最高の素材・技術によって伝統と最先端の革新を融合させた一台です。これは史上最高のベントレーの一台だと信じています」とコメントした。
EVシフトの波に乗り遅れまいとする焦りではなく、「ベントレーらしさ」を軸に据えた上でBEVという形式を選んだ。そのメッセージがここには込められている。

コアとS、2グレードのスペック比較
トルカルはローンチ時点で「コア」と「S」の2グレード同時展開となる。
コアは最高出力821PS、最大トルク1,194Nm、0-100km/h加速3.4秒、最高速250km/h。数字だけ見れば、現行のスーパースポーツと比較しても引けを取らない動力性能だ。
Sモデルはさらに上を行く。ローンチコントロール作動時に最高出力888PS、最大トルク1,350Nm、0-100km/h加速2.9秒、最高速260km/hを発揮する。1,350Nmはベントレー史上最大のトルク値だ。
興味深いのはR&Dチームの判断で、「これ以上の加速はラグジュアリーな快適性を損なう」という知見のもとにこの加速レベルが設定されたという点だ。スペックを追求しながらも、あえて「上限」を定めたことにベントレーの哲学が見える。フライングスパーと同等の快適性とコンチネンタルGTスピードと同等のダイナミクスを一台で実現するというコンセプトが、このグレード設計に直結している。
Sモデルにはブラックのエクステリアブライトウェアやリアディフューザー、レッドのブレーキキャリパーなど視覚的にも差別化された専用装備が与えられ、スポーティな立ち位置を明確にする。

800V・113kWhバッテリーと充電性能
パワーユニットは前後に永久磁石同期モーターを1基ずつ搭載するデュアルモーター構成。フロントはオープンデフ、リアは多板クラッチを備えたロッキングデフで、状況に応じた細かなトルク配分を可能にする。いずれのモーターもドライサンプ構造でオイルは永久封入と、メンテナンスフリー志向の設計だ。
バッテリーは192個のリチウムイオン・ポーチセルを直列接続した構成で、公称電圧800V、ネット容量113kWhという大容量を誇る。WLTPベースの航続距離は最大600km(英国表記で375マイル)。
充電性能も見どころだ。400kW級の急速充電器を使用した場合、10〜80%の充電を約16分で完了できるとされている。また約7分の充電で約161km分の航続距離を追加できる計算となる。
バッテリー保証は約16万km(10万マイル)または10年で、長期オーナーシップへの安心感も担保されている。

シャシーとステアリングの革新
トルカルのシャシーで最も注目すべきは、ベントレーとして初採用となるフルアクティブ・サスペンションだ。2バルブ式アダプティブダンパーと組み合わさり、各ダンパーが路面状況やドライバーの操作入力に対してリアルタイムかつ個別に伸縮する。
このシステムが画期的なのは、アンチロールバーを必要としない点だ。コーナリング時のロール抑制は、ダンパーの反応によって無段階に調整される。従来のアンチロールバーが直進時の乗り心地に制約をもたらしていたことを考えると、快適性とコーナリング性能を同時に高める可能性を秘めたアプローチといえる。
電子制御式オールホイールステアリングも標準装備となる。後輪は最大5度まで転舵可能で、最小回転直径はわずか11.1m。全長5mのボディながら取り回しに不安を感じさせない設計だ。
ブレーキはフロント420mm・リア370mmのスチール製が標準。オプションではカーボン・シリコン・カーバイド(CSiC)セラミックを選択でき、フロント440mmのディスクはベントレーの他モデルと並んで世界最大クラスとされている。

デザインは「4つのリード」で構成
トルカルのデザインは、デザインディレクターのロビン・ペイジ率いるインハウスチームが担当した。その設計哲学として「4つのリード(見え方の順序)」という概念が採用されている。
第1はプロポーション。ロングホイールベースとショートオーバーハングを組み合わせ、「アップライト・エレガンス」と「エンドレス・ボンネット」を基本原則とする。第2はグラフィック。フロントフェイスにはコンチネンタルTをはじめとする歴代名車の面影を踏まえつつ、イルミネーテッド・ダイヤモンドグリルで現代的に再解釈した。第3はサーフェス。余分なキャラクターラインを排し、面とプロポーションだけで立体感を表現する。キャビン後方を絞り込んだリアハッチは、デザインチームが「レスティング・ビースト(休む野獣)」と呼ぶ造形だ。第4はディテール。ダイヤモンドパターンを一貫したテーマとして全体に散りばめる。
またトルカルは、ベントレーの新しいエンブレムをまとう最初のモデルとなる点でも象徴的な存在だ。

インテリアとウェルネス技術
車内に足を踏み入れると、ダッシュボードはベントレーを象徴する「翼」のモチーフをシンメトリーで表現。ローレット加工のダイヤルや新解釈のブルズアイ型エアベントが伝統的な彫刻美を漂わせる一方、センターコンソールとステアリングホイールにはあえて物理スイッチを残すなど、デジタル全振りとはならない判断が光る。
シートは新設計で、標準仕様でも16ウェイ電動調整・ヒーター・ベンチレーション・調整式サイドボルスター・リラクゼーション機能を完備。オプションの「ポスチュラル・アジャスト」は長距離走行中にシート形状を微妙に変化させ続けることで体圧分散を最適化する。「スマート・シート・クライメート」はヒーターとベンチレーションを自動制御し、乗員の快適性を維持する。
リアシートには3人乗りに対応したベントレー初の電動格納システムが採用された。ほかにもAR(拡張現実)ヘッドアップディスプレイ、顔認証によるドライバープロファイル読み込み、曲面OLEDスクリーン、モバイル・デバイス・キーなど、最新テクノロジーが惜しみなく投入されている。
ルーフには新設計の「フロステッドダイヤモンド・スイッチャブルガラスルーフ」を採用し、4基のレーダー制御式パワードドアはシートベルト装着・ブレーキペダルへの加圧などのアクションに連動して閉操作が可能だ。

EV専用サウンドと素材へのこだわり
内燃機関がなくなったことで失われる「エンジンサウンド」。ベントレーはそこに独自の答えを用意した。「ベントレー・ダイナミック・シンフォニー」と名付けられたサウンドシステムは、伝統の6¾リッターV8の鼓動に着想を得て、ドラム・ヴィオラ・ベースギターなど実際の楽器を用いてミュージシャンが制作したものだ。意図的に微細な揺らぎや不完全さも取り入れており、機械的な完全性よりも人間的な温かみを優先している。音量はドライバーのトルク要求量や車速に応じてリアルタイムで調整され、スポーツモード時に高まる。不要なら消すことも可能だ。
ウインカーの作動音にはレザー工房でハンマーが革を叩く音を使用し、通知音にはクリスタルグラスの音を採用するなど、細部のサウンドデザインにも職人的な思想が貫かれている。
素材の面でも見逃せない取り組みがある。サマセットの老舗フォックス・ブラザーズとの協業で、世界初となる100%メリノウールの自動車用ファブリックを開発。自動車用ウールファブリックとして初めてレスポンシブル・ウール・スタンダード(RWS)認証を取得した。ウォールナットの端材とクラフトペーパーを最大1,000層に圧着した「オンブレ・ウォルナット・バイ・マリナー」など、廃材を活かすサステナブルな手法も積極的に採用している。

日本市場の状況と今後の展望
ベントレー モーターズ ジャパンは2026年9月24日に日本語プレスリリースをPR TIMESで配信した。しかし、2026年9月26日時点では日本での発売時期・国内価格はいずれも未発表となっている。
800Vアーキテクチャ、113kWhバッテリー、ベントレー初のフルアクティブ・サスペンションといった内容を見るかぎり、内容に見合った価格帯が設定されることになりそうだ。
なお、ホイールはローンチ時に5デザインが用意されており、コアは21インチ、Sは10ツインスポークの22インチが標準装備。タイヤサイズはサマーとウインターが21・22インチで、22インチにはオールシーズンも用意されることが明らかにされている。日本の発表については続報を待ちたい。

ベントレー トルカル 主要諸元
| 項目 | コア | S |
|---|---|---|
| 最高出力 | 821PS | 888PS(ローンチコントロール作動時) |
| 最大トルク | 1,194Nm | 1,350Nm |
| 0-100km/h加速 | 3.4秒 | 2.9秒 |
| 最高速度 | 250km/h | 260km/h |
| 標準ホイール | 21インチ | 22インチ(10ツインスポーク) |
| 駆動方式 | 前後に永久磁石同期モーターを1基ずつ搭載(フロント:オープンデフ/リア:ロッキングデフ) | |
| バッテリー | リチウムイオン・ポーチセル192個を直列接続/公称800V/ネット容量113kWh | |
| バッテリー保証 | 約16万km(10万マイル)または10年 | |
| 航続距離 | 最大600km(WLTP/英国表記375マイル) | |
| 急速充電 | 400kW級で10〜80%を約16分/約7分の充電で約161km分を追加 | |
| サスペンション | フルアクティブ・サスペンション(ベントレー初採用)+2バルブ式アダプティブダンパー。アンチロールバーなし | |
| ステアリング | 電子制御式オールホイールステアリング(後輪最大5度) | |
| ブレーキ | スチール:フロント420mm/リア370mm(標準) CSiCセラミック:フロント440mm/リア410mm(オプション) |
|
| 全長 | 約5m | |
| 最小回転直径 | 11.1m | |
| 荷室容量 | リア460L+フロントストレージ90L | |
| オーディオ | 標準:620W・16スピーカー/Naim:1,780W・28スピーカー(Dolby Atmos 7.1) | |
| 日本導入 | 発売時期・国内価格ともに未発表 | |
※ 2026年9月23日(英国現地時間)の世界初公開時点でベントレーが公表した数値。欧州仕様であり、日本仕様の諸元・価格・発売時期はいずれも未発表です。急速充電時間について、公式プレスリリース内には「10〜80%を20分弱」という別の記述もあります。
Roadly編集部コメント
正直なところ、888PSのEVというスペックは数字として飛び込んでくるが、Roadly編集部が最も関心を持ったのはR&Dチームが「これ以上の加速は快適性を損なう」と判断してあえて上限を設けた、という設計思想の部分だ。スペックを追いかけることが目的化しがちな高性能EV市場において、「快適性との両立」を優先順位の頂点に置いたベントレーのアプローチは異質に映る。フライングスパーやコンチネンタルGTをすでに所有してきたベントレーオーナー層が、初めてBEVを選ぶ際の「最初の一台」として設計されているのが見えてくる。日本での価格や発売時期が明らかになった段階で、改めて詳細レポートをお届けしたい。
ベントレー初のBEV「トルカル」は、単なる電動化ではなくブランドの本質を電気で再定義しようとする意欲作だ。日本導入の詳細が明らかになり次第、Roadlyでは続報をお届けする。
情報源・出典
- 情報源:Bentley 公式(欧州)
- プレスリリースタイトル:THE ALL-NEW BENTLEY TORCAL MAKES GLOBAL DEBUT
- プレスリリースURL:https://www.bentleymedia.com/en/newsitem/1835-the-all-new-bentley-torcal-makes-global-debut
本記事は上記のメーカー公式プレスリリースを情報源として、Roadly編集部が事実情報を再構成・独自視点で執筆した解説記事です。プレスリリースの文章・構成・画像を複製したものではありません。詳細は上記リンクよりご確認ください。
※本記事は情報提供を目的とした解説であり、商品・サービスの購入や投資判断を推奨するものではありません。スペック・価格・発売時期等は変更される場合があります。