2026年9月2日、英国ゲイドンからひとつの時代の転換を告げるニュースが届いた。JLRジャパン公式プレスリリースによれば、レンジローバーブランド初のフルEV「RANGE ROVER ELECTRIC」が正式発表されたのだ。1970年の初代誕生から半世紀以上、燃焼エンジンとともに「ラグジュアリーSUVのパイオニア」として君臨してきたレンジローバーが、電動パワートレインという新たな武器を手にした。最高出力550PS・最大トルク850Nmのデュアルモーターに、実走行航続距離535kmを誇る大容量バッテリーを組み合わせ、さらにオフロード走破性も妥協なし。このモデルが示すのは「EVになってもレンジローバーはレンジローバーである」という強烈なメッセージだ。
この記事のポイント
- デュアル260kWモーターで最高出力550PS・最大トルク850Nm、0-100km/h加速4.45秒を実現
- 118.5kWhダブルスタックバッテリー搭載、実走行最大航続距離535km・DC急速充電は10分で220km回復
- 渡河水深900mm・最大45度勾配対応など、フルEVでもレンジローバー伝統のオフロード走破性を継承
「EVよりもレンジローバー」という哲学
JLRジャパンの公式発表で最も印象的だったのは、その開発理念の明快さだ。「EVであることより、RANGE ROVERであることが第一」という理念を掲げ、電動化をブランドのアイデンティティに従属させている。ラグジュアリーEVの多くが電動化そのものを主役に据えるなか、この順序の置き方はレンジローバーらしい。
RANGE ROVER担当マネージング・ディレクターのマーティン・リンパート氏は「『RANGE ROVER ELECTRIC』は10年にわたる綿密なエンジニアリングと技術開発の結晶であり、ラグジュアリーSUVのパイオニアとして新たなベンチマークを打ち立てるモデルです」とコメントしている。
エクステリアはレンジローバーらしいリダクティブ(無駄をそぎ落とした)デザインを継承しつつ、高速道路での航続距離を最大化するために空力特性を最適化したグリルやホイール、専用設計のアンダーボディを採用。300件を超える特許出願が示すように、見た目の静粛さの裏側には徹底した技術革新が詰め込まれている。

デュアルモーターが生み出す圧倒的な動力性能
公式発表によれば、RANGE ROVER ELECTRICには260kWの永久磁石式電気モーターを2基搭載する。最高出力は550PS、最大トルクは850Nmに達し、これはV8ガソリンエンジンに匹敵するスペックだ。
0-100km/h加速は4.45秒、80-120km/hの追い越し加速にいたってはわずか2.7秒という俊敏さを誇る。シリコンカーバイド(SiC)半導体を採用することでマイクロ秒単位のスイッチング速度を実現しており、このサイズのモーターとしては同クラス他社製比で20%大きなトルクを発生するという。
注目したいのがインテグレイテッド・トラクション・マネージメント(ITM)と呼ばれる制御システムだ。モーター回転数を50ミリ秒以内で制御し、従来の内燃機関搭載車と比較して最大100倍速くスリップを管理できる。インテリジェントドライブラインダイナミクス(IDD)と連携し、後輪へのトルク配分を100%から0%まで瞬時に調整することで、あらゆる路面状況で最適なトラクションを確保する仕組みだ。

118.5kWhバッテリーと超高速充電の実力
搭載バッテリーは344個のプリズムセルで構成されたリチウムイオン・ダブルスタック方式で、実用容量は118.5kWh。800Vアーキテクチャを採用することで、最大出力350kWのDC急速充電器を使えばバッテリー残量10%から80%まで約22分で充電できる。さらに10分間の充電だけで220km分の航続距離を回復できるというデータも公式発表で示されている(いずれもWLTPモード)。
最大航続距離はWLTPモードで372マイル(約599km)、より現実に近い実走行ベースでも最大333マイル(535km)に達する。日常の通勤や、国内主要都市間を往復するようなロングドライブなら、途中充電を考慮する必要がほとんどないレベルといえるだろう。
またThermAssist(サーマシスト)と呼ばれる独自の熱管理システムにより、航続距離は最大25マイル延長され、暖房エネルギーの消費量を40%削減できるとしている。冬場の航続距離低下という、EVオーナーが抱える懸念への明確な回答になっている。

渡河900mm、45度の急勾配。走破性は譲っていない
レンジローバーといえばオフロード走破性だが、公式発表はEV化にあたってその走破能力を「一切損なうことなく発揮する」と位置づけている。電動化と引き換えに何かを差し出した形跡がない、というのがこのモデルの静かな凄みだ。
公式発表によれば、渡河水深は最大900mm。上級者向けスキーコースに匹敵するという最大33度の急勾配でもスムーズに発進でき、シングルペダルドライビングモードを活用すれば最大45度の勾配もローリングしながら登り切ることが可能だとされる。ITMシステムの50ミリ秒という応答速度は、内燃機関では物理的に到達できない次元の制御精度であり、泥、砂、岩場といった路面でのトラクション制御において明確なアドバンテージをもたらす。
JLR ビークル・エンジニアリング・ディレクターのマット・ベッカー氏は「グリップ力の低い過酷な悪路から、スムーズな高速道路に至るまで、『RANGE ROVER ELECTRIC』は驚くほどの落ち着きと洗練さを保ち、ドライバーに確かなコントロール性と揺るぎない安心感をもたらします」とコメントしており、開発チームの自信がにじむ。低重心化とツインチャンバー・エアサスペンションの組み合わせも、オンロードでのドライビングダイナミクス向上に貢献しているという。

150万kmの走行テストと300件超の特許
RANGE ROVER ELECTRICの開発プロセスは、規模においても既存モデルを大きく上回る。スウェーデン・アリエプローグでの-40℃の極寒テストから、ドバイの灼熱砂漠、英国イーストナー・キャッスルにあるJLR独自施設まで、走行テストの総距離は150万kmを超える。25万時間以上のバーチャルテストも組み合わせ、公式発表では「RANGE ROVER史上最も入念かつ徹底した検証を実施した」と位置付けられている。
バッテリー保護の観点では、高強度アルミニウム製エンクロージャーを採用し、-40℃から+90℃という過酷な温度域での多軸振動・衝撃テストをクリア。さらに全車にバッテリー・デジタル・ツインを搭載し、900項目を超える診断データをソフトウェア・オーバー・ザ・エア(SOTA)機能と連携させてプロアクティブなメンテナンスを実現する。パワートレイン保証は8年または10万マイル(詳細は市場によって異なる)と明示されており、長期所有を見据えた安心感も用意されている。
関連する特許出願数は300件超と、レンジローバーブランドの単一モデルとして過去最多となる見込みだ。

英国ソリハル工場が生産を担う意味
RANGE ROVER ELECTRICは、1970年のレンジローバー誕生以来の拠点である英国ソリハル工場で製造される。JLRはこのモデルのためにソリハル工場を刷新し、先進的な製造技術・デジタル技術・電動化技術へ大規模な投資を進めてきた。工場の製造部門を担う従業員9,000名が電動化に関するスキルアッププログラムを受け、ウェスト・ミッドランズ拠点でもさらに1,500名がトレーニングを受けているという。
バッテリーとモーターは独自開発で、ウルヴァーハンプトンにあるJLRのエレクトリック・プロパルション・マニュファクチャリング・センターをはじめとする製造ネットワークが生産を支える。同センターは内燃エンジンに加えてバッテリーパックや電気駆動ユニット(EDU)も手がける、英国最大の内燃機関および電気パワートレイン製造施設だ。再開発の第1フェーズでは4年間で200万時間以上をかけて40,000㎡の敷地を刷新し、全長9kmのコンベアとテムズ川の全長を上回る182kmの電力データケーブルを備えたバッテリー/EDUの製造ラインを13本新設。EDUの製造工程では品質検査にAI搭載スキャンカメラを導入している。
JLR チーフ・オペレーションズ・オフィサーのナイジェル・ブレンキンソップ氏は「『RANGE ROVER ELECTRIC』のソリハル工場での生産は、50年以上にわたるRANGE ROVERの製造ノウハウと、最新の電動化技術および先進的な製造技術を融合させたものです」と語る。同氏によれば、ソリハル工場での生産は数千もの企業を支えており、その支出の3分の2以上が英国および欧州のサプライヤーに向けられているという。

日本導入時期・価格は未発表
今回のJLRジャパン公式プレスリリースには、日本国内の発売時期・国内価格・国内グレードに関する記載は一切含まれていない。現時点では「日本導入時期・国内価格は未発表」という状況だ。
コネクテッド機能については、新しいRANGE ROVER APPを通じて車内の空気清浄機能やステアリングヒーターの遠隔操作、充電状況・予測航続距離のスマートフォン確認、そして自宅などで充電ケーブルに接続して駐車している際に充電時間帯を選択・予約できる機能などが用意される。電気料金が変動する環境では、割安な時間帯を狙って充電できるわけだ。
RANGE ROVER ELECTRICは、MHEV・PHEV・内燃機関(ICE)モデルと同じアーキテクチャを採用し、すべて同じソリハル工場で生産される。JLRのフレキシブルなパワートレイン戦略によるものだ。なお公式のエディターズノートによれば、RANGE ROVERブランドはRANGE ROVER、RANGE ROVER SPORT、RANGE ROVER VELAR、RANGE ROVER EVOQUEで構成され、現在は全モデルにPHEVまたはMHEVをラインアップ。2030年までにはフルEVモデルを導入する予定とされている。今後の国内情報公開に注目したい。

RANGE ROVER ELECTRIC 主要スペック(公式発表分)
| 項目 | RANGE ROVER ELECTRIC |
|---|---|
| パワートレイン | 永久磁石式電気モーター×2基(各260kW) |
| 最高出力 | 550PS |
| 最大トルク | 850Nm |
| 0-100km/h加速 | 4.45秒 ※1 |
| 0-60mph加速 | 4.3秒 ※1 |
| 80-120km/h加速 | 2.7秒 ※1 |
| バッテリー | リチウムイオン ダブルスタック/実用容量118.5kWh |
| セル構成 | プリズムセル344個 |
| システム電圧 | 800V(分割充電技術) |
| 航続距離(WLTP) | 最大372マイル ※2 |
| 航続距離(実走行) | 最大333マイル(535km)※3 |
| DC急速充電 | 最大350kW/10-80%を約22分 ※4 |
| 10分充電あたり航続 | 137マイル(220km)※2 |
| 最大渡河水深 | 900mm |
| 登坂性能 | 最大33度から発進/最大45度をローリング登坂 |
| トラクション制御 | ITM(最短50ミリ秒応答/ICE比最大100倍) |
| サスペンション | ツインチャンバー・エアサスペンション |
| パワートレイン保証 | 8年または10万マイル ※5 |
| 生産拠点 | 英国ソリハル工場 |
| 日本導入時期・国内価格 | 未発表 |
出典:JLRジャパン公式プレスリリース(2026年9月2日)。本リリースに日本国内の発売時期・価格・グレードの記載はありません。※1 常に現地の速度制限を遵守してください。※2 EUの法規制に基づきJLRが実施した試験結果。WLTP数値は同一条件下で試験された車両モデル間の比較を目的としたもので、実際の航続距離は速度・気温・運転スタイル・地形・積載量などにより異なります。※3 実走行航続距離は市販車を標準化されたルートで走行させた結果に基づく参考値で、公式のWLTP試験値とは異なる場合があります。※4 最大充電レートで充電した場合。※5 保証内容や対象範囲は市場によって異なります。
Roadly編集部コメント
「電動化に乗り遅れたブランドが焦って出してきたEV」という印象とは正反対で、RANGE ROVER ELECTRICはむしろ「10年かけてでも妥協したくなかった」という姿勢が随所に見える。300件超の特許と150万kmの走行テストという数字は、単なるマーケティングではなく本気度の証明だろう。個人的に惹かれるのは、オフロード性能を一歩も譲らなかった点だ。SUVのEV化では舗装路特化になるケースが多い中、渡河900mm・45度勾配対応を維持したままEV化したことは、JLRがレンジローバーに課した絶対条件だったのだろう。本格オフロードにも興味があるラグジュアリーカーファンにとって、注目度は群を抜いている。日本価格・発売時期の続報に期待したい。
レンジローバーが10年越しの開発を経てフルEVで本格参戦する。550PSの動力性能と実走行で535kmという航続距離、そして変わらぬ走破性。日本市場への導入詳細はまだ明かされていないが、続報が出次第Roadly編集部でも速報する予定だ。
情報源・出典
- 情報源:RANGE ROVER 公式(JLRジャパン)(日本)
- プレスリリースタイトル:RANGE ROVER 初の電気自動車(EV)「RANGE ROVER ELECTRIC」ラグジュアリーSUVのパイオニアが切り拓く新時代
- プレスリリースURL:https://pr.jlrj.jp/articles/a2a5e2d1-8906-43cf-b98a-d5a4535cd562
本記事は上記のメーカー公式プレスリリースを情報源として、Roadly編集部が事実情報を再構成・独自視点で執筆した解説記事です。プレスリリースの文章・構成・画像を複製したものではありません。詳細は上記リンクよりご確認ください。
※本記事は情報提供を目的とした解説であり、商品・サービスの購入や投資判断を推奨するものではありません。スペック・価格・発売時期等は変更される場合があります。