エアコンを、つけなくなった。
代わりに、窓を少しだけ開ける。
指1本ぶんくらい。
それだけで、車内の空気が、すこし違う。
そんな時期、来てませんか。
4月の終わりから、5月のあたまにかけて。
たぶん、1年でいちばん車が気持ちいい時期。
夏のエアコンは、便利だけど少し冷たすぎる。
冬の暖房は、眠くなる。
春のこの数週間だけ、外の空気をそのまま車内に入れていられる。
風には、温度がある。
今日の風は、ちょっとだけ冷たい。
明日の風は、もう少し甘い。
エアコンの効いた車内では、たぶん気づけなかった違い。
たしかに、ある。
窓を開けると、入ってくるもの
音が、近くなる。
タイヤと路面の音。風の音。すれ違う車の、誰かの音楽。
普段は一枚向こうにあった世界が、急に隣にくる。
車って、こんな音の中を走っていたのか、と思う。
匂いも、入ってくる。
朝の住宅街なら、誰かのコーヒー。
雨上がりなら、アスファルト。
夜なら、どこかの家の夕飯。
ナビには出ない情報。
同じ60km/hでも、窓を開けていると、すこし速く感じる。
そのおかげで、急ぎすぎている自分にふっと気づく。
こんな道で、開けたくなる
どれも、窓を閉めていたら、半分しか走っていない道。
ほんの少しだけ、こだわる
この季節を、もう少し楽しむなら。
急ぐより、感じる。
そういう走り方が、似合う季節。
短い、ということ
この季節は、すぐに終わる。
5月の半ばを過ぎたら、もうエアコンが必要になる。
窓を開けると、湿った熱い風が入ってくる。
そうなったら、もうこの“ちょうどいい”は、来年まで来ない。
だからこそ、今しか乗れない車のモードがある。
エアコンを切って、窓を少し開けて、
音楽を小さくして、ちょっとゆっくり走る。
それだけで、いつもの道が、季節の中の一本になる。
短い春を、車の中から味わう。
それは、車を持っている人だけの、小さな贅沢かもしれない。